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京都地方裁判所 昭和28年(行モ)8号 決定 1953年8月05日

申立人 京都府地方労働委員会

被申立人 日本食糧倉庫株式会社

主文

本件を大阪高等裁判所へ移送する。

理由

申立人は、被申立人は申立人が京労委昭和二十七年(不)第一号事件につき被申立人に対し為した命令が確定するまで、新林安雄を昭和二十八年四月五日に遡り昭和二十七年一月五日被申立人会社京都支店が同人に対して行つた解雇通告当時と同一の労働条件を以て被申立人会社京都支店に復帰せしめ、新林安雄に対し昭和二十八年四月四日以降同人の前項復帰に至るまで一日につき金六百七十三円四十一銭の割合による金員を同人の被申立人会社京都支店復帰時に即時支払わなければならない、との決定を求め、その申立の原因として主張する事実の要旨は、京都府南桑田郡千代川村字今津二十五番地新林安雄は予て被申立人会社京都支店の現場作業員として雇われ被申立人の業務に従事していたところ、被申立人は昭和二十七年一月五日被申立人会社の都合を理由として突然同人に解雇を申渡した。しかし新林は右解雇が労働組合法第七条第一号第三号の不当労働行為に当るものとして申立人委員会にその救済を申立てた。そこで申立人委員会は審理の末これを容認して一、被申立人は申立人を昭和二十七年一月五日に遡り、解雇当日と同一の労働条件を以て即時原職に復帰させなければならない。二、被申立人は申立人に対し昭和二十七年一月五日以降原職復帰に至るまで一日につき金六百七十三円四十一銭の割合による金員を即時支払わなければならない。三、被申立人は今後労働組合の結成ならびにその運営を支配し又は介入してはならない、との救済命令を発し該命令書は昭和二十七年三月十七日被申立人に到達した。被申立人はこれを不服として同年四月十五日申立人を被告として労働組合法第二十七条第四項に基いて京都地方裁判所にその取消を求める行政訴訟を提起し、これと共に行政事件訴訟特例法第十条に基き前記救済命令の執行停止命令の申立をした。申立人委員会においても緊急命令の申立を為すことを考慮していたが被申立人より右行政訴訟事件の判決の結果如何に拘らず該事件の第一審判決言渡に至るまで前記救済命令記載の金員を毎月前記新林に支給することを確約し被申立人は前記執行停止命令の申立を取下げたので申立人委員会は緊急命令の申立を控えてきたのであるが右行政訴訟につき昭和二十八年四月三日京都地方裁判所に於て申立人が為した前記救済命令を取消すとの判決が言渡されたので同月十八日これに対し控訴の申立を為し該訴訟は更に継続せられ前記新林の地位と生活は更に安定しないこととなつたので申立趣旨のような決定を求めるというのである。

よつて案ずるに、労働組合法第二十七条第七項により本件申立は使用者である被申立人が提起した前記行政訴訟の受訴裁判所に為すべきであるが、一般に受訴裁判所とは或る訴に関して判決手続が将来繋属すべき、或は現に繋続する、又は嘗て繋属した裁判所を指称するのであるが、茲に謂う受訴裁判所とは緊急命令の特質に稽み、緊急命令の申立を為すに際し当該行政訴訟が現に繋属する裁判所を謂うものと解すべきであつて、嘗て該行政訴訟が第一審として繋属した裁判所を含まないものと解すべきである。蓋し労働者等は使用者よりの不当労働行為に対して労働委員会にその救済を申立てて救済命令を得ることが出来るが、使用者がその救済命令に対して不服を唱え該救済命令の取消を求める行政訴訟を提起したときは該救済命令は確定を阻止せられ、当該行政訴訟の確定判決によつて救済命令の効果が取消されることなきに至るまで、労働者の地位は使用者の不当労働行為の前に保護を与えられることなく放任されることとなり、而も行政訴訟が確定に至るまでには通常相当の日時を要するところであるから、斯かる不合理を生ぜしめぬ為に、行政訴訟の判決が確定するに至るまで救済命令を発した労働委員会の申立により当該行政訴訟の受訴裁判所の決定で使用者に対し救済命令の全部又は一部に従うべきことを命ずることとしたのであつて、その性質は仮執行宣言や本案に付随した強制執行停止等の一時的処分に酷似し、その申立の当否、緊急命令を発すべき範囲、程度の判断や疏明の利便や既に為した緊急命令を当事者の申立により若しくは申立を俟つ迄もなく職権を以て取消し、変更する等緊急命令の審理裁判が本案行政訴訟の審理の推移に密接な関係を有するが故に斯る附随的裁判は之を本案訴訟の繋属せる裁判所をして管轄せしめるのが最もその制度の本質に副う所以である。仮りに行政訴訟が控訴裁判所に繋属するときでもその第一審裁判所に対し緊急命令の申立が許されると解するならば、一方では控訴裁判所に於て該事件の当事者である使用者の申立により或は職権を以て救済命令の執行を停止し、他方では第一審裁判所に於て労働委員会の申立によつて救済命令を容認する緊急命令が為されるというような法の庶幾しない奇異の事態の生ずることも起り得ることとなる。

以上の如く緊急命令を申立つべき受訴裁判所とは本案行政訴訟が現に繋属する裁判所を謂うのであつて嘗て該行政訴訟が第一審として繋属した裁判所を謂うものではないと解する。このことは民事訴訟法の諸規定に於て受訴裁判所なる用語を第一審として繋属した裁判所の意味に用いる場合常にその旨明記してあるのを例とする(同法第六十条第百条第五百二十一条第五百四十五条第五百五十七条第七百三十三条第七百三十四条)に係らず前記労働組合法の規定には単に受訴裁判所とのみ表示していることからも推論できることである。而して当裁判所が本件被申立人を原告、本件申立人を被告とする不当労働行為救済命令取消事件(当庁昭和二十七年(行)第三号)につき審理し昭和二十八年四月三日終局判決をなし、これに対し本件申立人より控訴申立を為して右事件が現に大阪高等裁判所に繋属していることは当裁判所に顕著なところであるから本件申立につき当裁判所は管轄を有せず、仍つて行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第三十条第一項を適用して本件を管轄裁判所たる大阪高等裁判所へ移送することとし主文の通り決定する。

(裁判官 宅間達彦 宮崎福二 林義雄)

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